「塾なし中学受検」を考える

〜塾に通わず、通信教材のみで都立中高一貫校に合格しました〜

「塾なし中学受検」を選んだ理由②

〜「『塾なし中学受検』を選んだ理由①」からの続きです〜

yyyask.hatenablog.jp

 

 

前回の「『塾なし中学受検』を選んだ理由①」では、以下の3つを挙げました。

a. 子供自身の意思の尊重

b. 私立中学受験というシステムへの思い

c. 経済的な問題

 

今回はb. の理由について書きたいと思います。これはa. と多分にオーバーラップする部分もあるのですが、自らの経験も含めて思うことが色々とある部分です。「『塾なし中学受検』を選んだ理由①」でも書きましたが、私自身の中学受験は自らの意志とは無縁の場所で決まっていたため、どうしても勉強に取り組む姿勢が甘くなりがちでした。子供の頃の思いで言えば、「もっと遊びたいのにいやいや塾に通っている」状況です。そもそも平均的な中学受験勉強の開始時期が小学4年生前後の時期であるため、その時点で「中学は公立か、それとも私立か?」という問いは、多くの子供たちにとって必然的に難しいものとならざるを得ず、畢竟親の計画や意志が主体になってしまいやすい訳です。これは現在でもほとんど変わらない、いやむしろ受験準備開始年齢の低年齢化が進むにつれてより強まる傾向にあるのではないでしょうか。

 

私は中学受験が成功する鍵の一つに、「受験生自身の強い希望」があると思っています。切っ掛けはどんなものでも構わないと思うのです。精神年齢が高めな小学生であれば、勉強であれ課外活動であれ、自分のしたいことが思う存分できる場として特定の私学に行きたいと考えるかもしれません。または、小学校での人間関係がうまくいっていない、あるいは地元の公立中学校の環境が著しく良くないため、このまま進学することが不安だという動機もありうるでしょう。いずれにせよ、本人に小学校生活の3年以上を費やして塾に通って勉強することを頑張り抜ける動機があれば、私は中学受験も選択肢の一つとして全く問題ないと思うのです。

 

私が個人的に問題に感じるのは、時として子供の意思を飛び越えたところで完全に親が主体となって行われてしまうような中学受験なのです。進学塾を中心としたいわゆる受験産業は、ありとあらゆる手で親を子供の中学受験参入へと誘導します。純粋に「私学はこんなに素晴らしい場所ですよ!」と紹介するだけでなく、時には「公立だとこんなに不安要素がありますよ!」といった形で、親の焦りを引き出そうとしたりします。けれども、冷静に考えれば当たり前のことなのですが、どんな子供にとっても私学が最適な環境であるなどということはありえないわけです。地元の公立中学に進学する子供たちと非常に良い友人関係を築けている子もいるでしょうし、私立中学に特有の男子校や女子校が肌に合わない子もいるでしょう。また、受験産業では戦略上公立中学を一括りにしてその構造的欠陥を指摘し、親の不安を煽ったりしますが、公立中学も地域や校長の力量によって素晴らしい取り組みをしているところはあるわけです。一方、私立中学と一口に言っても学校のレベル、共学か別学か、宗教のある・なしといった分かりやすい違いから、どんな生徒が集まりどんな校風を持っているのかといった外からではなかなか分からない違いまで、まさに千差万別であるわけですから、その中から必ず自分の子供に合う私学を選ぶというのは実はかなり難しいことなのではないかと思うのです。

 

ここで親が落ち着いて様々な要因をしっかりと検討し、その上で「やはり我が子にとってはこの私学が合っていて、本人もその学校への進学を望んでいる」という状況が作れたのであれば問題ないと思うのですが、実際には先ほどのような不安を煽られ、子供の思いとはまったく別の場所で何となく中学受験を考えているという保護者も多いのではと思うのです。そして、そのように親と子の向いている方向にズレがあるまま強引に中学受験の世界に入ってしまう時に、悲劇が起きうるのではないでしょうか。

 

こんな風に考える理由には、やはり私自身の体験が大きく影響しています。100%親の意向で中学受験勉強をしていた私には、いわゆる志望校もありませんでした。「『塾なし中学受検』を選んだ理由①」にも書いた通り、私の親もある程度学校のことを調べたり、説明会に参加したりして一定の情報はもたらしてくれていましたが、私自身に「私学に行きたい」という動機が欠けていたため 、結局はその時々の私の偏差値に合う学校を「志望校」として決められていたという状況でした。「その時々」というのも、小学校6年生の前半には4科で60強あった偏差値も9月以降じわじわと下降していき、12月には55前後になってしまったため、「志望校」のレベルもそれに合わせて下がっていったためです。最終的には入試との相性もあったのか偏差値60弱の男子校に何とか滑り込めたのですが、当初親から勧められていた学校の偏差値が65ほどあったこともあり、私自身の中学受験に対する当時の思いは「うまく行かなかった」というものだったのです。より正確に表現すると、「親の期待に応えられるだけの能力がなく申し訳ない」という気持ちでした。

 

いま、自らが親になって改めて考えると、自分が進学した学校は決してダメな所ではないと思いますし、もし息子が望んで受験して合格したならば、心から「よくやった!頑張った!」と言ってあげられる学校だと思います。私の親も最終的にはそのような気持ちでいてくれたのではないかと信じているのですが(確認したことはありません…)、とにかく地元の友人関係に未練があったことと、進学してから1年半ほど過ぎた時に「自分は男子校ではなくて共学に通いたいんだ!」と強烈に思い始めてしまったことで勉強への意欲が急速に失われてしまい、結局そのまま中学レベルの勉強もおぼつかないまま大学受験まで行ってしまったため、最終的にはわざわざ中学受験をしなくてもよかったのでは…という学力しか身につかずに終わってしまったのでした。

 

つまり、一言で言えば、「私には母校の中高一貫男子校は合わなかった」ということに尽きるわけなのですが、これは必ずしも私だけの特殊なケースではないとはっきり言えます。自分の場合は途中で別の高校に進学したいと思うだけで終わってしまい、それ以上のことは行動に移さないままとりあえず卒業はしましたが、そのようなミスマッチに私以上に苦しんだ級友の中には高校に進学するタイミングで別の学校に行った人も、また高校に進学はしたものの結局転校していった人もいました。6年間で約5%の生徒は中途退学したようでした。そして、このようなことが私の母校だけの話では決してないことは、実は簡単に確認できることなのです。中学受験ガイドのようなものを開き、中学1年生の在籍者数と高校の卒業生数を比較すれば、おおよその中途退学率が分かります。そして、高校募集をしていない学校では大なり小なり生徒数が減少しているのです。その中には学校が合わずに辞めていった人が一定数いることを考えると、「私立中学に入れば全て解決!」とは決して行かないことも見て取れるわけです。

 

このような事実は少なくとも積極的に表に出される情報の類ではないため、受験産業由来の情報にだけ接している限り意識されずに終わってしまうことが多いのでしょう。そして親がそうならば、まして中学受験の当事者である10歳前後の子供たちには想像もつかない側面であるわけです。親が主導せざるを得ないケースが多いということが、私が中学受験に感じている構造的な問題の一つなのです。しかし、繰り返しますが、そこを親子ともにしっかりクリアできているのであれば、私には否定する気は一切ございません。単純に我が家では第一子A子が通塾も私立中学受験も、ともに希望しなかったという理由から見送ったということです。

 

〜「『塾なし中学受検』を選んだ理由③」に続きます〜

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